元記事: http://www.pc-view.net/Business/051208/
 
 *[[企業ブログのリスク 〜BR/Blogger Relationsの必然性〜:http://www.pc-view.net/Business/051208/]] [#a450c1ab]
 
 世界のソニーが2005年11月に送り出したウォークマンAは、まさにiPodに奪われたポータブル音楽市場を奪還すべく世に送り出された製品だった。11月初旬のリリースのタイミングがダブったのは仕方ないとしても、iPod nanoのパッケージングに負けない豪華な化粧箱を使った製品、バイオカラーを踏襲したと思われる魅力的なカラーリング、決して見劣りしない内容だ。何より14時間という圧倒的なバッテリー消費時間は、iPodを打ち砕く十分な要素だといえるかもしれない。
 
 **「大炎上」したウォークマンブログ [#le14b9a3]
 
 しかし11月下旬、その花道は泥で汚れてしまった。ソネット内に用意された消費者にモニターをしてもらうという前提で運営されていたブログ「ウォークマン体験日記」が閉鎖に追い込まれてしまったのだ。事の発端は、その記載内容に読者から「やらせではないか」という疑惑が持ち上がったことだ。確かに、筆者が見たときも、不審に思う点がいくつもあった。そして、瞬く間にコメント欄が批判意見で占められてしまったのだ。
 
 それからの運営者側の対応が悪かった。そのコメントの一部を削ったかと思えば、最終的には開始後3日程度でブログ自体を削除してしまったのである。現在も、そのURLは残っているが(http://www.so-net.ne.jp/blog/walkmandiary/)「一部の方々に誤解を生じる可能性のある表現があったことをお詫びいたします」といった謝罪文だけが残る。しかし、本当に誤解だったのか?だとしたら何故説明しないのか?―消費者にとって疑問だけが残る形となった。
 
 この事件の詳細は、本稿の執筆時点では得られなかったが、最大のポイントは対話を止めてしまったことにある。
 
 ブログは、確かにCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)としての利便性に優れる。しかし、コメント欄というオプションが付いた単なる記事発信システムという訳ではない。運営者個人を軸に、記事を通じて対話するコミュニケーションのインフラなのである。多くのブログが誰に向けて書いたわけでもない独白で占められているが、その先には対話がある。それは一方通行かもしれないし、時間の差もあるかもしれないが、いずれにせよ非同期の対話は成立しているのだ。
 
 特に、ウォークマンブログの場合は、スタート直後、モニターに当選した個人が参加するという前提で、口語調で読者と対話する雰囲気があった。スタートから閉鎖まで3日もなかったので、対話が生まれる時間はなかったが、商品の購入を検討していたユーザーにとって期待感を感じられるものだっただろう。運営事務局側をそういった効果を期待しての取り組みだったと考えられる。
 
 だからこそ、コメント欄の内容がエスカレートしていったとき、モニターで参加した人も、運営事務局側、そして読者も戸惑ったと思う。個人への誹謗中傷が拡大する懸念も感じられたので、今回の避難策はある種正当だと思える。しかし、それはそれで詳細を説明する必要があっただろう。
 
 例えば、これが投資家だったらどうだろう。説明不足があったら投資対象として疑問を感じるのは当たり前だ。IR=Investers Relationは、企業と投資家との関係を構築し、資本市場での正当な評価を得るための活動だ。今や、消費者がブログというメディアを持っており、ブログメディアでの評価が利益に直結しようとしている。つまり、IRだけでは不足しているのである。沈黙すれば悪いスパイラルが生まれる。つまり、BR=Blogger Relationsが不可欠の時代になっているのだ。
 
 **正直こそ最大の戦略 [#kd2551f3]
 
 では、このような問題にどう対処すればいいのだろうか。実はすでに解答はある。それは、
 
 「正直であること」
 
 である。事実を隠さない、造らない、嘘をつかないということだ。 バズ(口コミ)マーケティングの先進国である米国では、これを守らないで失敗するブログマーケティングの例をしばしば見かける。よくあるのは以下のパターンだ、
 
 消費者ブロガーにインセンティブを与えて記事を書いて貰う
 運営事業者自ら演出目的で誇張記事を書いてしまう
 これらの自作自演マーケティングがバレたときはあまりにも惨めだ。もっとも悪い例は、某企業が自社内のIPアドレスで自作自演をしたのがバレたときだ。こうなると長年積み重ねられた信頼も一瞬で崩壊する。このようなマーケティング方法の最大の問題点は、黙ってサクラを使おうと安易に考えてしまうことである。バレたとしても嘘をつき続けるしか方法がなくなってしまう。
 
 日本でも、やたらと「サクラを使わなければコミュニティはうまくいかない」という話を聞く。いくら止めても「盛り上がらないのは困る」というのだから、こっちが困ってしまう。もう「やらせ」はもう止めましょうといいたい。何故なら、サクラを使った時点で、企業として嘘をつくことになる。「サクラ=回し者」である(広辞苑、第四版)。嘘をついた上に、自作自演となれば、PR手段としての有効性以前の問題だ。
 
 誤解をしないでほしいのだが、スタッフブログや、特定の参加者が「キャンペーンブログに参加します」といってブログを運営するのには何ら問題はない。何故なら嘘をついていないからだ。誇張する面もあるだろうし、営業トークが挿入されるのは読者としては想定済みなので、それなりに楽しめて有益であることが多いからだ。特に、開発者などがグループで長期にわたり運営するブログは、その商品のファンにとって計り知れないほどの価値がある。
 
 ただ、そもそもPRにブログを使うのには、難しい面もある。なぜならPRは、ある一定の配意への露出を狙って行うものであり、ブログという「ネガティブな記事をも許容する口コミ媒体」とは親和性が高いとはいい難いからだ。つまり、先に指摘したBR/Blogger relationsの考え方で、対話をする姿勢を崩さず付き合っていかなければならない。またPRブログの場合は、期間限定で終わるケースが多いが、そういう面からもPRとブログの親和性の低さが伺える。
 
 ブログマーケティングの失敗例では、「トラックバックセンター」がある。テーマを設けてトラックバックで記事を募集するというものだ。しかし、トラックバックポータルなどコミュニティ形成目的以外で、この試みが成功したという話を聞いたことがない。
 
 何故なら、ブログ間でのトラックバックは「意見を投げつける/投書」という意味あいが強いからだ。十数個の投書が並んだとしてトラックバック先のブログの記事の価値が高まるというわけでもない。やはり、対話や文脈がない限り、ブログ間に価値は生まれないのである。BRは企業とブログの関係を構築する上で欠かせない言葉になるといえる。
 
 **【企業&ブログのセオリーの3カ条BR/Blogger relations】 [#m5756a23]
 -正直であること
 -(ブログは)非同期コミュニケーションであることを認識すること
 -対話を続けること